神戸と北九州という二つの新空港の追い風になると思われるのは、好調な日本経済である。航空需要は旅客も貨物も経済成長とともに増加するという性質を持つ。今後数年間で関西や九州の経済成長も見込まれるため、突発的なアクシデントがない限り、両空港を起終点とする需要は増加するだろう。しかし、旅客輸送に関しては両空港には課題がある。それは羽田便以外の需要をいかに伸ばすかということであり、この点から見れば、両空港は他の地方空港と同様の問題を抱える。
国土交通省大阪航空局は2000 年に関空と大阪国際空港(伊丹)の利用者を対象に、神戸空港の利用意向に関するアンケートを実施した※1。
図表3 は、その結果に基づいて旅客の居住地別に利用意向のシェアを示したものである。ここから明らかなように、神戸空港の利用者は神戸市と東播磨の二つの圏域に偏る。しかし、兵庫県において神戸市以外で人口規模が大きいのは阪神地域であり、ここを出発地あるいは到着地とする旅客の獲得が神戸空港の利用者の増減に直結する。
別の調査によれば、東京へ向かう阪神地域居住者のおよそ71%は新幹線を利用し、航空利用者は26%にとどまる。神戸空港当局は伊丹の旅客だけではなく、新幹線利用者のモード転換を促す努力をしなければならない※2。
神戸空港は第三種空港として開港される。第三種空港は国からの補助が少ないが、設置管理者の市にとって理論上は「経営」の自由度が高いとされる。
そこで空港当局の採るべき方策は二つある。能登空港のような地元の徹底したサポートと、欧米の主要空港のような経営方法の導入であろう。前者に関しては、例えば神戸商工会議所が中心になって、航空路線を開設する相手都市との交流促進チームをつくり、乗客を増やす努力を始めている。また欧米の空港の中には、駐車場やテナントなどの非航空系収入が十分大きく、航空関係収入を上回っているケースもある。神戸空港当局もこのことには十分留意していると思われ、非航空系収入を増やすことは、かつて株式会社と言われた神戸市の腕の見せ所となる。
しかし、筆者の計算によれば、日本の空港においては、駐車場利用者数と乗降客数の相関係数は0.6 前後である。係数が1 に近いほど、乗降客数が駐車場利用者数を左右すると考えられる。従って、旧北九州空港のように自家用車のアクセスシェアの高い空港では、相関係数が0.8 を上回る。ただし、離発着便数と駐車場利用者数との間にはほとんど相関はない※3。当然、テナントの利潤も乗降客数に左右されるために、リース料の水準は乗降客数が握ることになる。
言い換えれば、空港経営がうまくいくためには十分な乗降客数が必要である。そのためには、空港は利用者のニーズに基づいて路線を設定しなければならない。しかし、現在、収益源となる羽田路線には羽田空港の容量に制約があり、空港が航空会社との自由な交渉によって離発着便を決定することは実質的に不可能である。
加えて、そこに影を落としているのが伊丹と関空を含めた三空港の分担問題である。2005年11 月に開かれた関係首長や関経連会長が参加する第4 回関西三空港懇談会において、神戸空港の運用について次の三点が確認されている。それは、(1)運用時間は7:00〜22:00の15 時間(2)1 日の発着回数は60 回B年間発着回数は2 万回程度を上限にする―ということである。しかも、新聞報道によれば国土交通省は神戸と伊丹のジェット便の合計発着回数を定める意向を持つとされ、二つの空港はゼロサムの状況に置かれている。
つまり、神戸空港は需要が伸びても、伊丹便が減らない限り、航空会社の乗り入れを断らざるをえない。神戸は開港時には、すでに懇談会の設定した上限に近い離発着数を確保しており、このような制約は経営にとって深刻なディスインセンティブとなる。今後、関西地域の旅客需要が増えれば、航空会社は関空に路線を設定しなければならなくなる。
神戸空港は関西地域における第三空港であるが、現時点での状況からみれば、伊丹のセカンダリ空港と位置付けてよい※4。セカンダリ機能が伊丹の補完のためにあるとしても、伊丹との競争が必要なことを経験は物語る。欧米では一部のセカンダリ空港に低費用航空会社が参入し、航空会社間ならびに空港間の競争を通じて地域全体の航空需要が増加したのである。しかし、伊丹と神戸の総量が抑制されれば、航空会社は関空か伊丹・神戸かという選択を迫られ、地域全体の増便という社会的厚生の改善効果は消えてしまう。つまり、このような制約は、著しく利用者の視点を欠くものといえよう。
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